範子の告白ーー「王妃の帰還」より
「やめなよっ」
全身の気力をかき集め、範子は大声で叫んだ。皆の視線が矢のように突き刺さり、身が縮んだ。消え入りそうになりながらも、なんとか声を絞り出す。
「私の友達にそんな悲しいこと言わないでよ……」
王妃がこちらをゆっくりと見た。範子は安心させるために、小さくうなずく。
そう、王妃と範子はもう友達なのだ。その事実は驚くほど範子の心を温めた。ああ、そうだった。去年初めて見たときから、彼女と仲良くなりたくて仕方がなかったのだ。綺麗なだけではない。堂々としていて、誰かの顔色をうかがったりしない、もって生まれた威厳とオーラに、どうしようもないほど惹きつけられたのだ。同時に王妃はとっても孤独に見えた。取り巻きに囲まれていてもどうしようもなく「一人」に見えた。それでも胸を張り、凜とした態度で嫉妬も憧れも引き受ける様がたまらなかった。生まれ変わったらあんな女の子になりたいと思った。また、自分なら誰よりも心を通わせられる存在になれるのに、と密かに確信していた。
あの頃からは想像もつかないところまで来た。事情はどうあれ、手の届かない存在だった彼女とこうして親しく口を利くようになり、自宅にも招くようになったのだ。だから、少しくらいの犠牲は喜んで払うつもりだ。